京都の中心街から一山越えた山科の里中央辺りにこっそりと佇んでいるかわいい和菓子店。ここの「蕨餅」は絶品である。50年余りの創業だが、京都に数ある老舗と比べても全く引けを取らない。茶道の活発な京都の茶人たちは抹茶との相性の良さを知っていてよく使われる。有名菓司処でないのが幸いで、丁寧な手作り「蕨餅」を繊細に味わえるのは多くをつくらない老職人のこだわりから来ているのであろうか。取り方がわからないほど柔らかい蕨の皮の中に絶妙の甘さの漉し餡が鎮座し、黒文字の楊枝で簡単に切ることができる。二口ぐらいで食べられる大きさにも慎ましい京都の文化性が感じられ、昔から京都の菓司処として続いてきたような気にさせる逸品である。
狂言や新選組で有名な壬生寺、その東側の細い路地に今唯一京都に残る武家屋敷がある。その武家屋敷をうまく利用して、日本では珍しい根付の美術館がある。中に入ると江戸期にタイムスリップしたかのような建物と調度品や庭を背景に夥しい数の根付を観る事ができる。江戸期に栄えた根付であるが、明治以降多くが海外に流失、今むしろ海外でアート作品としてコレクターに人気のようである。当根付館でも古い作品をはじめ、現代作家の作品を数多く収蔵して、年4回時候のテーマで企画・展示を行っている。中でも現代作家の作品は機知に富んだ現代アートとして面白い展開を魅せている。手のひらに乗る小宇宙に次代の可能性を秘めた発見がある。
西陣織を代表する手織りミュージアムとして30年余り前に改装オープンされたもので、西陣の伝統的家屋様式(織屋建)を今に残している。展示は全国の手織物をはじめ能装束や振袖など手織り技術を落ち着いてゆっくり観ることができる。また見学・鑑賞だけでなく手織りの体験も可能である。私のネクタイは基本渡文に決めている。腰があり型崩れしない。デザインも斬新で締めるだけで誇らしく思えるから不思議だ。近年までこの辺りは軒並み機を織る家が並んでいたが、当時の活気は今でほとんどなくなった。ただそこで培ってきた高度な技術や芸術性には目を見張るものがあり、先人達の足跡の素晴らしさを肌で感じられる絶好の場所である。
鰻の高騰により最近めっきりうなぎ屋から遠のいた気がする。それでも好物なので時々行くが身の大きさがなんとなく小さくなったなあという気持ちになる。そんな中であえて挑戦するかのような店舗が京の街中に存在する。関西焼でも関東焼でもないその中間の「京焼」と称して自慢の鰻を出す。九州の自社で育てた自信作「土佐のいごっそう」「筑紫金うなぎ」「天空うなぎ」この3種を存分に食べてもらいたい!その意気込みが料理の量からも伝わってくる。鰻に掛ける店主の熱い思いを受け止めるだけでお腹一杯になる。うなぎ屋にしてはスッキリしていて綺麗過ぎるような店舗であるが、鰻づくしを求める人にはお勧めのお店である。
まだ20年にも満たない新しい和菓子処ではあるが、すでに和菓子好きは誰でも知るようになった名店である。創意工夫が活かされた月ごとの風情を楽しめる姿や色には相当の完成度をもって味わうことができる。特に勝負どころの味は生家京の老舗塩芳軒や名古屋の芳光での修行から生まれた結果であろう。自信作を舌で確かめながらこれだけのレベルの菓子を食べられることは幸せであると思わせるところが見事である。絵に描いたような京都らしい佇まいの店舗で本物のお菓子を購入するのは日本の文化に触れた気になるから不思議である。京都には到底お店に見えない菓子処がまだ残っている。どのお店も予約が原則であるが、それがまた京都らしいところである。
侘びさびの京都の観光地として私の大好きな銀閣寺や法然院周辺にはいいお店が沢山ある。その一つに店舗としては中に入らないと和菓子を扱っているとは思えない佇まいのお店が緑菴である。京都芸術大学には裏千家さんから頂いた颯々庵という立派な茶室があるが、その授業や教職員茶道部にはなくてはならない和菓子処である。おかげで私はほぼ毎月緑菴の時候に合わせたお菓子を頂くことになる。老舗「末富」で修業されたと聞くが、素材が違えども甘さと舌触りはいつも絶妙だといわざるを得ない。京都の四季を知り尽くした店主からのメッセージを和菓子から伝わってくるのは並みでない証拠である。「哲学の道」辺りを散策されるときなどふらっと立ち寄られたら感動間違いなしである。
出前とテイクアウトのお店でありながら創業して60年である。しかもネタはこだわりの本格派。昔から出前寿司はここと決めている。今でこそコロナ禍で出前は普通になったが、これほどしっかりとネタを吟味して持ってくるところは少ない。使い捨て器でも対応してくれるが、器も塗りの寿司桶と本格派。今もって守る姿勢を寿司屋のポリシーとして持っている。シャリにも安定感があり、特にトッピングでの対応が電話一本で何でも叶えようとしてくれる。また時候や状況に合わせてお酒の相談にも乗ってくれ、その要望に応えた酒が楽しめるのはうれしい限りである。安くてうまい寿司を家庭で楽しめる私の数少ないおすすめの店である。
自分へのご褒美に。大切なひとへも教えたくなる、贈りたくなる。大野木さんおすすめの京都を紹介していただきました。