僕が一番普段使いしているパン屋がヤマダベーカリーです。
普段使いのポイントは、美味しい白米のように飽きがこない、それでいてお値段がそんなに高くないこと。その点でヤマダベーカリーは本当に素晴らしい。いつも買うのは山食パン。朝早くからやっていることも大切ですよね。出会いは、京都の「フレンドフーズ」というスーパーマーケット。たまたま手に取ったパンがこれだったんです。朝トーストにして、食べた瞬間にサクッ、中はちょっともちっとしてそれでいて軽い、ものすごくバランスが良い。「なんだこのパン、ヤマダベーカリーと書いてあるじゃないか」調べてみると家の近くだったのですぐに行って、 ポイントカードも作って、いつも買っています。冷凍して東京にも持って行きます。
二条・東大路を東に入った(祇園の芸者さんに教えていただいた)ワインショップ。
ここはちょっとしたマニアックさと、それでいて普通の人が行っても買いたくなるものがある。扱うワインのバランスがいいです。何買っても外れないと思いますよ、ここに置いてあるものはだいたいおいしいです。
だから僕は月に1回は必ず行きます。レアなものを高く売ったりしない、レアなものでも比較的定価で売るので掘り出し物が時々ある。そして、この店から仕入れているレストランはだいたい美味しい。だから、店頭には取引のあるレストランのショップカードが置いてあるんですが、それを持ち帰って、今日行くレストランを決めるのもいいと思います。
10年以上ずっと通い続けているバーです。
まずインテリアが素敵です。すごくシンプルなんだけど居心地がよくて茶室のような感じもある。「これ誰がやったんですか」と聞いてみると「木島さんていう人です。そこにいるあの人ですよ」って、ちょうど木島さんが来ててそれで仲良くなり、僕の家の内装を木島さんにお願いして、その後、下鴨茶寮銀座店の内装もお願いして。
あとはスピーカーもいつもいい音が鳴っている。「このスピーカーいいですね」って言ったら「これ奈良のまんぺいくんというスピーカー職人が作ったんです」と。で、僕の家のスピーカーそれです(笑)すっかり家がうえとのお店みたいになってしまい、最近は行く頻度が減りました。おすすめは、舌が痺れる山椒のジントニックと、冬には栗のホットカクテルです。
いろいろありますが、僕は「バーは店主が魅力的かどうか」だと思っています。カクテルコンペティションで1位とかそういうことではなく、ただの水割りぐらいしかなくても、そこで過ごす時間の心地よさがバーの価値かなと思っています。
夜の清滝によく行きます。向かう途中のトンネルが異次元なんです。
そもそも清滝は愛宕神社に参拝する人のための宿場町として栄えていました。かつては旅館やごはん屋さんもあったんですけど、今もう旅館は一軒もない。「ここがとにかく素晴らしいとこだ」と京都のイタリアンシェフに聞いて行ったのが最初だったんです。今、行く目的の一つが蛍。蛍が本当に綺麗なんです。あとは、山の中にある愛宕神社に火の用心の札をもらいに。愛宕神社へ奉納しに36kg以上の水を背負ったお年寄りが毎日、山を登っている姿を見た時は、「なんて自分は情けないんだ」と思いながらも、神社に行けたことに達成感はあるので、火の用心の札を10枚ほどまとめて買って帰りました。それを行きつけのお店に持って行くと「うわ!登ってきたんですか!」とすごく喜ばれるんです。行きつけの店に持って行くお土産としては、最高のお土産になります。嵐山までは皆さん行きますけど、でもその先がまた面白かったりします。
僕は高校時代から哲学の道が大好きです。
高校は熊本ですが、京都の大学に行きたくて、しょっちゅう京都に来てました。哲学の道が好きな理由に、中原中也が好きだったから、というのもあるので、京都に来た時は中原中也が過ごしたと思われるような場所と哲学の道をずっと歩いたりしていました。
歩き続けて30年以上。最近整備されて綺麗になり、歩きやすくなりました。夕暮れ時に市バスの 100番か5番に乗って哲学の道まで行くんですが道沿いのお店がまた良質です。イタリアンのmonk、蕎麦屋の十五(じゅうご)、炭火焼きの梨門邸などなど。
おすすめの時間帯は、早朝か夜。早朝は誰もいなくて本当に気持ちいい。カメラが好きなんでいつもカメラを携えて歩いてます。“哲学の道”って言うからには歩きながら考えると、良いアイデアがひらめくような気がするんです。京都の暮らしの中によそ者が入り込むところに僕は魅力があると思います。
将軍塚に歩いて登ったことが、最初のきっかけです。
祇園の街から出発して15分後には、ひとけがなくて怖くなるぐらいの山の中を歩いている。こんなに都市と大自然が接近している町ってあまりない。普通、“自然”に行くってなったら電車に乗って、遠くに行くじゃないですか。でも京都は山の際まで、町が開けています。
最初に将軍塚へ登った時に、その自然に感動したんです。こんなに街の中に自然があって、しかも素人が登るのにちょうど良い疲労感を感じる高さの低い山なんですよね。登った時、京都市内が見渡せ、とても清々しい気持ちになって「山歩きって楽しいんだよな」と思えます。京都トレイルは伏見稲荷の方から、ずっと比叡山の方まで続いてる。これは面白いと思って週末ごとに「今日はこの区間歩いてみよう」とおおよそ4時間程歩いてみるようになりました。あとは、歩いた後の銭湯がもう最高。東山付近では、平安湯と銀座湯がおすすめです。
言うまでもなく、帆布を使った鞄の名店中の名店です。
僕は大学生の頃から帆布鞄が好きでした。でも学生には高くてなかなか買えなくて。大人になってから 、1 万円以下で買えるものもあるので、結構持ってます。20以上持ってるかな。一番長く使ってる鞄で10年程。ちょっと補強してもらったり、穴も修繕してもらえます。普通モノは経年劣化しますが、この鞄は経年優化していくんです。使うほどに馴染んで愛着が湧いてくる。 帆布は最初硬くても、使ううちにやわらかくなっていく。使う喜びを教えてくれるものです。
決して安くはなく高いと思いますが、本当にその値段に見合う価値がある鞄だなと思いますね。信三郎さんの考えは、たくさん売るというより「自分たちができることをできるだけやって、それを買っていただけるお客様がいればそれでいいじゃん」っていう、そういう考え方だから「今年の新作コレクションはこれです!」ということもやらないし、当然セールもしない。自分たちができることを一生懸命やってる、僕はそこが素敵だなと思うんです。
器屋さん。ただ、新品の器はなくて、中島さんという主人が全部買い集めてきたものです。
店内は崩れ落ちそうなくらいに豆皿からおちょこ、花器…とにかく、いろんな器が並んでいるんですが、なかなかセンスが良くて。それでいて普段使いできる器が揃っています。あと、ご主人が「これは良い」「悪い」、何でこの値段がついてるのかなどをちゃんと教えてくれます。料理屋の若手が独立して器を揃える時、ここで揃える人が多いですね。良い料理人が買いに来るから、ここに行くと新しい料理屋の情報が知れるのもいいですよ。僕の店情報は、実は大体ここから。
「あかん堂」って名前は、確か一澤信三郎さんがつけたはずです。信三郎さん最初は、“アホかん堂”にしようとしたらしいんですよ。そうしたかったけど「アホかん堂は勘弁してください」とご主人がいい、「あかん堂」に決定したそうです。
京都の銭湯を復活させたいという強い思いで、銭湯愛に溢れた人がやっているサウナ。
ここに梅湯新聞というのがあるんですよ。梅湯で働く若い子達お手製の、手書き新聞。下手くそな文章もあるし、めちゃくちゃ上手なイラストもあって、その梅湯新聞が銭湯の壁に貼ってある。これを湯につかりながら読むってのはなかなか良いです。若い人たちの夢を共有しているみたいな気分がして、それを見て「いいな~」と。いつかコンバースのことを書いている人がいて、僕はそれを見てコンバースを買いました。
僕は毎年、年末大晦日に梅湯へ入りに行ってお酒をね、一升瓶置いていくんですよ。ちょっと粋な大人かなと思ってそういうことをやってたら、僕だけじゃなくて、やっぱり僕以上の常連がさりげなく置いていく光景を見て、やっぱり大人達が助けたいと思う湯なんだなって思う。あと日曜日は早朝からやって年末からお正月も営業する。この辺の頑張りがすごいなと思う。 早朝に湯に入りたいと思ったら、梅湯新聞読みたいなと思ったら、是非。
ずっと僕がお世話になっている大徳寺の中にある塔頭の一つ。
一休さんをお祀りするために、一休さんが亡くなった10年程後に作られたお寺です。今は、山田宗正さんという方がご住職をやって、今27代目ですかね。この山田さんという和尚さんがものすごく革新的というか、新しいことを恐れない方です。
本堂に長谷川等伯の襖絵がありましたが、それが傷んできたので補修しなければいけないとなり。全部外して修理している間、ただ代わりのものを入れてもつまんないし、いろんな人に絵を書いてもらおうとなりました。伊藤若冲も当時は流行作家みたいなもんだったわけですよね。だから「今で言うと、もしかしたら漫画家なんかいいんじゃないか」ということで、漫画家の方やアートディレクター、日本画の方…色々な方に絵を描いてもらっていますよ。本堂に描いたのが釣りバカ日誌の北見けんいちさん。北見さんの絵がまた面白い。一休さんのご本尊の前に北見けんいちさんの漫画の襖が広がっているんです。 普段は拝観できませんが、数週間だけ一般公開される年もあるので、その時はぜひ。
※一般公開される内容は年によって変化し、一般公開の期間がない年もあります。
京都に何度も足運んでいらっしゃる小山薫堂さんの、通な京都の歩き方を紹介していただきました。全編は、youtubeチャンネル「京都館会議・小山薫堂が絶賛する京都のオススメの10箇所」でご覧いただけます。