寺町の角を曲がると、生そば「常盤」と対面できる。
空腹を完全に作り上げて向かうのが、この店に対する礼儀だ。
出汁が効いたそばがうまいのは言うまでもないが、うどん、ビフカツ、日替わり定食、カツカ
レーなど、実はなんでも揃っている。
だから常盤に来れば食べたいものが絶対に見つかるのだ。腹の減った人間を誘惑するのがうますぎるメニュー構えが癖になる。
そういうわけだから、足繁く通う人も多くなるのは必然だ。
あのグリーンの椅子、わたしもひと月に一度は座らないと落ち着かない。
何度行ってもここに通う人が頼むメニューはいつもばらばらで、常盤のメニュー量の多さと、何を食べても美味いことを示している。
京都は古いものの集う街でもあるが、新しいもの好きな面もある。河原町の飲食店がどんどん入れ替わっていくのを何度も見かけた。
そういう現代で、常盤は「丁度良い」を提供し続けるプロだと感じさせてくれる数少ない店なのだ。
「これこれ、これで良いんだよ」と言いながら食べるおじ様に遭遇したことがあるが、心の中でうんうん頷いてしまった。
人は変化に弱い。だから不変を求めたがる。
そして大人になると、子供の時にはわからなかった「懐かしさ」が好きになったりもする。
常盤はぐるぐると目まぐるしく変化する世の中で、”変わらない”を選んだ店だと思う。潔い。
寺町を通りがかったら、「変わらない丁度良さ」を食べに行ってみてほしい。
これで丁度良いんだよ、と思えるはずだから。
津之喜酒舗
錦市場の真ん中、人々で賑わう酒屋