中京区柳馬場通に店を構える京うちわ阿以波。
創業330有余年の歴史と文化に育まれたうちわは、涼をとるだけではなくその風で魔を打ち払うとも言われる縁起の良いものだ。
風と共に大切な人への想いを伝えるという考え方や、女性が顔を隠すことに用いてきた歴史がいかにも日本人らしい。
京うちわは細骨を一本ずつ放射状に並べた団扇面に、別に作られた把手を組み合わせる差し柄の構造が大きな特徴と言えるが、その繊細な優美さや他のうちわとの差は、手に取れば歴然とする。
今はもっぱらエアコンが活躍しているし、他に涼もうと思った時に使うものといえば扇風機くらいなものだ。
涼むという行為一つとっても、我々の生活は家電に頼りきりなのを実感する。
しかしそういう環境に慣れてきているからこそ、たまにうちわで仰いだときの感覚は一層研ぎ澄まされ、情景も印象深くなる。
阿以波のうちわは透かしの技法が使われているものも多く、目から涼しい。
人が涼む時に起こす風の中で、最も心地良いと感じられるほどだ。
昔はうちわが贈呈品として用いられていた文化があったのだが、だんだんと薄れつつある。
その状況でも阿以波はサジを投げない。
良いものを良いままに残すことが、自分たちの役割であると思っているからだ。
京都の夏は厳しい。
だがどの地域の暑さにも、阿以波のうちわは馴染んでくれる。
使わないときは空間の締め役となる。
風は目に見えないが、どうせならば良き風を浴びよう。
津之喜酒舗
錦市場の真ん中、人々で賑わう酒屋