京都×歌舞伎 革新してきたからこそ文化は続く 日本一“伝統”が生き続ける街・京都
京都市が進める「京都館プロジェクト2020」。2020年を目途に京都館の再開に向けて,京都の魅力をさまざまな形で発信するイベントが企画されている。リーディング事業のひとつとして、京都に関わる方々を招いたトークショーが歌舞伎座タワー内の歌舞伎座ギャラリーで開催された。登壇したのは京都館館長の小山薫堂さん、漆工芸作家の三木啓樂さん、歌舞伎俳優の中村隼人さん。会場ぎっしりのお客様を前に、京都の魅力や伝統と文化の継承、最近興味のあることなどを、ざっくばらんに語り合った。
伝統や文化は直接、間接的に多分野の人々が支えている
実はこの日が初対面というお三方。まずはお互いのことを知ろうと、自身の仕事と京都とのつながりについて話す。小山さんが6年前老舗料亭「下鴨茶寮」を引き継ぐ際に前オーナーから老舗を守るためにアドバイスされた言葉「伝統は革新の連続である」が出て、話はこのトークショーのテーマである“伝統と文化の継承”に。
今年、スーパー歌舞伎Ⅱ「ワンピース」に出演する隼人さんが「僕らの業界は(伝統は)守るもの、という意識が強い。先輩方が形にしてきたものを、僕らも受け継いで繰り返し演じていく。一方で,その時代の流行を取り入れて続いてきたという歴史もあります。」と発言。しかもそうした若手の取り組みを、先輩方が「いいね、今の時代らしくどんどんやってみなさいよ」と応援してくれる心強さを語った。そうした歌舞伎の出演者を支える歌舞伎の小道具を作る人々について、小山さんが「そうした職人さんが少なくなっていて、また昔の道具を作る材料を集めるのも大変らしいですね」と言及すると、三木さんが「僕らが使う筆も、作る人がどんどん減っているうえ、いい材料も手に入りにくくなってるから、道具がなくて作品を創る技術が絶えるという危機もあります」と、文化が受け継がれて行くには、多くの人の支えが必要だということを、現場の切実な現状から説明。
京都のものづくりは分業が基本だから同業者の街区ができる
漆工芸作家である三木さんのものづくりの話へ、そして京都のものづくりは分業であり、それぞれの職人が丁寧な仕事をして、次の人に渡すという話へと、話題は縦横無尽に広がっていく。
「ひとつ行程が終わると次の職人にまわして、そこが済むとまた次へと、各工程が分業になっているものが多い。同じ工程を手がける人、同じ商品に携わる人が近所に住んでると便利でしょう。だから京都は同じものに関わる人が集まって住んでいる地域がいろいろあるんです」
例えば着物一枚とっても、生地を織る人、染める人、刺繍を施す人、箔や螺鈿を施す人など、多くの職人が合わさってできあがる。同じ職業の人がまとまった一角に住んでいることで、多くの職人がひとつのものに関わることが容易になり、その結果総合力の高い商品が生まれる。それが京都の伝統工芸の作られ方なのだ。
「職人は先代と同じものを作って仕事を覚える。その代ごとに作品にはその人の特徴があり、かつずっと通っているものがある、京都の伝統の技を継いでいくというのはそういうものです」 という三木さんの言葉を、小山さんは「ずっと同じものを作っているようで、実はつねにその時代の工夫が入っている。革新が続いてきたからこそ、現代まで生き残ってきたんですね」 とうなずく。歌舞伎もまさに同じと、隼人さんは「古典を大事に続けながら、新しいものに挑んでいく。その両方があることでそれぞれがまた活き活きしてくる。今、それをすごく感じています」 と、身を乗り出した。
「日本の文化のすごいものが京都にたくさんある。まだまだ日本人自身が知らないものもたくさんあるし、それをもっと多くの人に見てほしい」と小山さん。
京都に生まれ育ち伝統工芸を受け継ぐ人、京都から始まった歌舞伎を家の歴史とともに受け継ぐ人、外から来て京都の文化を受け継ぎ世界へ発信する人、それぞれの立ち位置から考える京都の魅力や、伝統を受け継ぐということについて語り合ううちに、携わる仕事は違ってもお互いに通じるものを感じあったようだ。
京都はおすすめスポットに事欠かない、人それぞれに大好きな場所がある街
京都在住の三木さんに、京都でリフレッシュするならここというスポットを尋ねる小山さんと隼人さん。三木さんのおすすめは、願い事が叶う、特に恋愛成就で有名な鈴虫寺。以前、隼人さんが一人で行ったことあると言うと、小山さんがすかさず芸能レポートのように、「本当に一人で行ったんですか?」「何を願ったんですか?」と矢継ぎ早に質問攻めにして、会場のお客様を笑わせる。「本当に一人で、です」「人に言うと叶わなくなるから教えません」と、隼人さんは堅いガードで応戦。
小山さんの京都での息抜きを尋ねると、ライカで京都を撮ることに今はまっているとのこと。その写真がトークショー会場の外に展示されており、小山さんとともにアレックス・ムートンという人の名前が。
「ああ、あれは僕のことです。フランス語でムートンって小山のことらしいんですよ。それでふざけて、アレックス・ムートンって写真家がいるかのように装ってて。たまに『アレックス・ムートンと組んでるなんてすごいですね!』小山さんの京都での息抜きを尋ねると、ライカで京都を撮ることに今はまっているとのこと。その写真がトークショー会場の外に展示されており、小山さんとともにアレックス・ムートンという人の名前が。とかいう人もいて(笑)」
と、いたずらを告白する小山さんに、先に「アレックス・ムートンって知ってます?」と小山さんに聞かれ、正直に「知りません」と答えていた隼人さんは「よかった! 知ってるふりしなくて……(笑)」 と胸をなで下ろすというシーンもあった。
真剣な話題とお茶目な話題を織り交ぜて、あっという間に過ぎた2時間。トークショーの最後は、小山さんに勧められて隼人さんが「京都は日本の伝統を一番感じる街。京都四條南座もありますので、観劇も兼ねてぜひ京都へゆっくり遊びに行ってください」 とお客様を京都への旅へ誘い、締めの挨拶となった。
【ミニ提灯づくりワークショップ】
「京都×歌舞伎トークショー」と同日、「ミニ提灯づくり体験」ワークショップも開催された。京都四條南座の提灯を手がける、小嶋商店の小嶋俊さんと諒さんご兄弟から、直接提灯づくりを教わることが出来る貴重な機会。多数の希望者の中から抽選で選ばれた、12名のお客様の前には木製の道具が用意されており、自分の好きな色の和紙を貼り合わせて提灯を作っていく。大胆に直感的に次々と色を並べて貼っていく方もあれば、1枚貼ってはじっくり悩んで隣の色を決めるまで時間をかける方もあり、作業の進行はまちまち。小嶋さん兄弟の指導を受けて、それぞれ美しい提灯ができあがっていった。
最後にろうそく風のライトを中に入れると、その光が和紙から透けてふわりと優しい灯りに。参加者全員の作品は、この後行われる「京都×歌舞伎トークショー」の会場に飾られ、ご来場のお客様の目を楽しませていた。