京都の隠れ里③ 京都の隠れ里「ゆずの里」再発見シリーズ③ 水尾の里〜ゆずの香りフェア〜 参加レポート

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京料理や冬を表す和菓子に使われる食材「ゆず」。その生産地として密かに知られる集落『水尾(みずお)』は、京都市・北西部の山間に佇んでいます。
現在は、日本料亭や老舗の和菓子屋で重宝されている水尾のゆず。これまで全3回で連載してきた特集記事『京都の隠れ「ゆずの里」再発見シリーズ』では、第1弾で水尾の里の全体像について、第2弾で水尾産ゆずの特徴をご紹介してきました。
そして、最終回となる第3弾では、東京都内で開催されたイベント『水尾の里〜ゆずの香りフェア〜(以下、ゆずフェア)』の模様をお届けします。
2018年12月〜2019年1月、『京都館プロジェクト2020』の一環として開催されたゆずフェア。京都館『のれん分け店舗』を含む15カ所で、水尾直送の採れたてゆずを使った特別メニューが提供されました。
今回の取材では、前半の3店舗は京都館『のれん分け店舗』、後半の3店舗はゆずフェアに伴走していただいた『good mornings株式会社』の運営するカフェを巡りました。店長・料理長・スタッフの皆さんにお聞きした、特別メニューに込めたこだわりや、水尾のゆずの特徴などをお伝えします。

とんかつ屋さんの「ゆずサイダー」

最初に訪ねたのは、新宿高島屋に店舗を構える『名代とんかつ かつくら(以下、かつくら)』。京都を基点に飲食店を展開する『株式会社フクナガ』のとんかつ屋さんです。
かつくらで提供されたのは『ゆずサイダー』。グラスに注ぐとシュワッと立ち上がる、爽やかなゆずの香り。すっきりとした炭酸水との相性は抜群で、食後のドリンクにぴったりです。

「京都が好きなお客様にご来店いただくことが多いので、『このゆずサイダーは京都のゆずを使っているんですよ』とお伝えすると、その場がワッと盛り上がるんです」と、店長の和田さん。かつくらが東京に進出した1996年から現在に至るまで、現役でご活躍されている方です。

「かつくらでは、京都を全面に表すことを意識しています。伝統工芸品を使ったり、酒屋格子で雰囲気を出したり。とんかつだけでなく、京都の魅力も味わっていただきたい。『ゆずサイダー』をご購入いただくことが、新しい京都との出会いにつながればと思っています」
とんかつ屋さんが手がける、水尾産ゆずを使った『ゆずサイダー』。ゆずフェア終了後も、東京都内の店舗で提供されています。また、ネット通販『京都フクナガ楽天市場店』でも購入できるので、合わせて覗いてみてくださいね。

水尾の香りで漬けられた「ゆず大根」

新宿から日本橋に移動。訪ねたのは、昭和15年創業の『京つけもの 西利(以下、西利)』。商業施設『コレド室町1』に店舗を構える、京都を代表するお漬物屋さんです。

今回、スポットライトが当てられたのはお漬物『ゆずの香り』。拍子切りの大根とゆずを漬け込んだ、西利(にしり)のラインナップのなかでも人気商品です。ゆずフェア期間限定で、水尾のゆずを使ったアレンジ商品が販売されました。

購入した『ゆずの香り』の封を開けると、ふわっと漂うゆずの香り。シャキッと歯ごたえのある大根に、鮮やかな黄色いゆずを添えると、口いっぱいに甘みが広がり、ゆずの風味が後から追いかけてきます。
「お客様にご紹介すると、『京都にゆずの生産地があったのね』と興味を持っていただけます。私も大好きな商品なのでおすすめしやすいですし、多くの方に手に取っていただいていますよ」と、店長の小林さん。

全国各地から観光客が訪れ、オフィスワーカーが行き交う日本橋。伝統ある京都のお漬物屋さんを通して、たくさんの人たちの食卓に水尾の香りが彩られたことでしょう。

ゆずの香りを閉じ込めた、老舗の逸品

圧倒される高層ビル群を見上げながら東京駅方面へ。続いて訪ねたのは、丸の内に店舗を構える『モリタ屋』。伝統と文化の味「京都肉」を活かした、すき焼きを提供する老舗です。
東京の街並みを見渡せる、丸の内ビルディングの35階。贅沢な景色を眺めながらいただけるのが、期間限定メニューの『京都水尾のゆずとくもこの釜蒸し』。同店で人気の『極みコース』の一品として提供されます。

鮮やかな黄色い果皮を器にした、見た目も美しい料理。白子、焼きねぎ、大根おろし、そして、ゆずの絞り汁をふりかけて釜蒸しに。密閉して香りを閉じ込めたまま提供するのがこだわりで、蓋を開けた瞬間、ふわっとゆずの香りが立ち上がります。
一目見た瞬間に引き込まれるインパクト。このような大胆な調理方法ができるのは「果皮が厚く、しっかりしている水尾のゆずだからこそ」と料理長の石井さんは話します。

「果実が大きく、熱を加えてもしっかりしている果皮を器として使ってみました。水尾のゆずは味がまろやかで、香り高い。貴重な食材を使わせていただき、とても光栄です」
水尾のゆずが持つポテンシャルと料理長のアイデアが掛け合わさったからこそ生まれた『京都水尾のゆずとくもこの釜蒸し』。期間限定にするのがもったいないほどの逸品でした。

輝くイルミネーションとゆずのホットドリンク

ここまでは、京都館「のれん分け店舗」に該当する3店舗をご紹介しました。続いては、good mornings株式会社の運営するカフェを巡ります。
地域課題の解決や、付加価値を高めるプロジェクトを全国各地で手がけているgood mornings株式会社。食・カルチャーを軸にした空間の企画運営、メディア制作、地域コミュニティ拠点の創出などを行なっています。
今回、ゆずフェアの舞台となったのは、同社が企画運営している3つの飲食店。それぞれのコンセプトと共にご紹介します。

最初に訪ねたのは、東京・丸の内『Marunouchi Happ』。コンセプトは「雑誌のように次々とテーマが入れ替わるPOP UP GALLERY」。オリジナルメニューに加え、多様なコンテンツとコラボレーションしたメニューも提供され、観光客やオフィスワーカーが気軽に立ち寄れるカフェ空間となっています。
提供されていたのは、『ゆず茶』と『ホットワインゆずの香り』。寒い季節に嬉しい『ゆず茶』は、トッピングされたゆずの皮もペロリ。苦味が少ない水尾のゆずならではです。また、珍しい組み合わせの『ホットワインゆずの香り』は、和と洋の味わいが見事にマッチしていました。

ベースにしているのは、水尾のゆずを使った特製シロップ。果汁を絞り、刻んだ皮と氷砂糖を一緒に漬け込みます。「仕込みをしている間は、お店がゆずの香りに包まれました」と店長さん。水尾のゆずは、調理をしているときにこそ最も香りを感じられます。

取材をしたのは12月下旬。ゆずドリンクをテイクアウトして、丸の内のイルミネーションを観るお客さんも多いのだそう。ゆず茶とホットワインで身体がほっこりしたところで、次の場所へと移動します。

柔らか、爽やか、シフォンケーキ

東京・丸の内から浅草へ。47都道府県の食材や伝統工芸品を販売する商業施設『まるごとにっぽん』。そこに店舗を構えるのが『Café M/N』です。

Café M/Nのコンセプトは「次の旅先がみつかるカフェ」。これまでも全国各地の特産物や旬の食材を活かしたメニューが提供されており、ゆずフェア開催中には『水尾ゆずのシフォンケーキ』が登場しました。

「ダイレクトにゆずを感じられてびっくりしました。ゆずは風味付けという印象を持っていましたが、水尾のゆずはしっかりと存在感があるんです」と話してくれた、ホール担当・中元さん。
刻んだゆずの皮を生地に練り込み、焼き上げたシフォンケーキ。中元さんのお話通り、柔らかな口当たりのなかに、しっかりと感じるゆずの香り。濃厚なホイップクリームとの相性も抜群です。

ここまでの取材で共通して耳にしたのが、水尾のゆずは「香りが高い」という感想。今回のゆずシフォンケーキを開発したキッチン担当の大塚さんからも、「味わいが濃く、香りの高さが抜きん出ていると感じました」というコメントをいだたきました。
大きな果実、濃厚な風味、そして、香りの高さ。お漬物、ドリンク、スイーツ、どのような形にしたとしても、そこにはしっかりと水尾のゆずが存在しています。

濃厚チーズケーキが奏でる「ゆず on ゆず」

ゆずフェア巡りのフィナーレを飾るのは、日本橋浜町に構える複合ビル『Hama House』。全面ガラス張りのおしゃれな外観が目を引きます。「街のリビング」をコンセプトに、ブックカフェやミーティングスペースが併設。good mornings株式会社の本社オフィスも入居しています。

2018年12月19日には『水尾のゆずを楽しもう』と題した交流会を開催。水尾の歴史や実生ゆず(種から育てたゆず)の特徴について語られます。また、水尾のゆずを使った創作料理が振舞われ、「ゆずの利き比べワークショップ」も実施されました。
水尾の実生ゆず、水尾の実生でないゆず、市販されているゆず、3種類を食べ比べ! 水尾の実生ゆずの香り高さが群を抜いていることを実感できる時間となりました。

今回のイベントは「浜町サービスパス」所有者限定の交流会として開催。また、水尾のゆずを使った創作料理にも舌鼓。濃厚クリームにさっぱりとしたゆずの香りがマッチする『ゆずとベーコンのクリームパスタ』などが提供されました。

Hama Houseの1階にあるブックカフェでは、特別メニューとして『ゆずのチーズケーキ』を提供。交流会の創作料理なども手がけた店長さんによると、「水尾のゆずは苦味がなく、酸味も柔らかく、まろやかな口当たりなので、幅広い料理との相性がいいと思います」とのこと。

チーズケーキのなかにもゆず果汁が練りこまれていて、濃厚な口当たりのなかに香りがふわっと広がります。また、特製のゆずジャムを添えると、「ゆず on ゆず」でまた別の味わいに。今日一番のゆず感を堪能し、全6店舗のゆずフェア巡りは幕を閉じました。

水尾と東京をつなぐ架け橋

特集記事の最終回でお届けした『水尾の里〜ゆずの香りフェア〜』。全ての取材先で共通して聞いたのは、「水尾のゆずを伝えたい」という気持ちでした。good mornings株式会社の水代 智子さんからも次のようなメッセージをいただいています。
「冬の京料理にはゆずが使われる印象を持っていました。そして、その生産地が京都市内にあることは、偶然ではないつながりを感じています。今回のゆずフェアは、東京と水尾をつなぐ架け橋。たくさんの人たちに、ゆずの里を訪ねてみたいと思ってもらえたら嬉しいです」

また、『水尾の里〜ゆずの香りフェア〜』を主催した京都館プロジェクト2020の宮原 崇さんからのメッセージもいただきました。
「今回、企画にご協力いただいた方々の素晴らしい調理や加工により、水尾のゆずの魅力が引き出され、お客様からも「おいしい!」「水尾ってすごいね!」とった反応をいただけました。今後、フェアをきっかけに、水尾を応援したいと思ってくださった方と地域を結び、新しい動きを生みながら、京都の食文化を支えていた水尾の持続的な発展につなげていけたらと思っています」
この記事をきっかけに「水尾のゆずを味わってみたい!」と思っていただけたのなら、水尾の冬の風物詩「ゆず風呂」「鶏鍋」を堪能するのがおすすめです(要予約・宿泊不可)。豊かな里山の風景に癒されながら、ほっこりと水尾のゆずを楽しみに訪ねてみてはいかがでしょうか。