本能寺の変から2年後、天正12年に創業し、ここまで業界を牽引してきたゑり善。見えないところまでこだわる心を、時代がどれだけ流れても脈々と受け継ぐ姿勢には感服してしまう。
ゑり善の特異なところとして真っ先に思い浮かぶのは、この現代でも反物を包んだ風呂敷を担いで家々を訪問する商いだ。店と顧客、淡白な関わりではなく、人と人として正直な営みをしている。挑むこころはあれども、不変の部分をブレずに持つゑり善だから、お客様との繋がりも切れることはない。着物は何代にも渡って受け継がれることのある品だけれど、そんな着物を扱うからこそ、そのこころが根付いているのかも。
ゑり善へ行くと、見えるものと、見えないものについて考える。
可視化が進むこの時代だから、縁や信仰や、まして人間のこころのつながりなんてものはどんどん希薄になっていく。それでもゑり善は根をあげずに見えないものを愛する姿勢を保っているし、それはある意味、現代へのささやかな反抗と挑戦のような気さえする。私たちはせっかく人に生まれたのだ。そういう光を心の隅に大切に持っておこう。
津之喜酒舗
錦市場の真ん中、人々で賑わう酒屋