ここは四条通、錦市場近く。
ビルの裏にひっそりと重厚な趣で佇むのは、明治元年より商いを続ける昆布の専門店、ぎぼし。
店一番の売りは、今なお職人の手で作られる”黒とろろ昆布”。
店主はそれを「半分殺して半分生かす」と表現する。
ふわふわすぎず、昆布のもつ繊維を絶妙に残したとろろ昆布は、機械削りでは絶対に真似できない。
手土産にピッタリな吹よせ、酸味の強すぎない上品な酢昆布、山椒と塩がピリッときいた塩昆布はご飯のお供には勿論、酒のつまみにももってこいだ。
思い出すだけでよだれの出てくる品々を、ぎぼしは長年提供し続ける。
ぎぼしに行くと、歳時や用途によって加工を変え、どんな「時」「場」「人」にもしっくりくるような工夫たちに驚かされる。
昆布の裏側には、京料理など他文化とのつながりもよく見える。
こんなに長く、沢山の人間に愛されるのは、ぎぼしが多種多様な時間への愛を持って作るからこそだ。
昆布は出汁を引く際のエース的存在であることはよく知られるが、活躍時がそればかりではな
いことをここに行くと教えてもらえる。
作る人の心意気は、作ったものを見ればわかる。ぎぼしの品々は、ご主人や奥様の人となりが大いに出ていると感じる。
子供、大人、お酒の場、御老人、打ち合わせの時間、家でゆっくり過ごす休日。
そんなあらゆる時間を想定して、丁寧に作り、包み、人の手で渡す。
私たちは昆布を買うと同時に、その先にあるしあわせの時間も受け取っているのかもしれない。
今日の食卓に、お酒の時間に、またはおやつに。ぎぼしを添えてみてはいかがだろう。
津之喜酒舗
錦市場の真ん中、人々で賑わう酒屋